育った町の、隣町にある喫茶店。
キャロット。
近くにあったのに、知らないでいた。
珈琲豆を配達しに行くおじいちゃんが、毎日のように通うところ。
「あそこのひとはひとがええんだわ」
といい、通っていることは知っていた。
店のひとは、70も半ば頃のお歳だそう。
片足をひきずりながら、店を営んでいる。
正月ごろに、はじめて伺った。
静かな場所で、古き良きものを感じられる佇まいは、ここでしか味わえない、心地よさがある。
店のひとは、おじいちゃんがいうように、とても穏やかそうな女のひとだった。
、、
この夏、母と話がしたく、二人でその喫茶店へ向かった。
正月に行ったきりだったのに、店のひとは、覚えてくれていた。
まだ、二度しか行っていないけれど、いまの自分には、これ以上ない、安心を覚える空間である。
辞めようとして、でも、お客さんからの声にこたえるような形で、続けることを決めたと聞いた。
いまでは、ボケ防止、なんて話もあるようだった。
「この辺は喫茶店がないから、辞めないでくれ」
そう、いろんなひとから言われたそうだ。
どんな店でもいいから、ということではない。
あのひとだから、きっと、そう伝えたであろう、人柄だった。
いい店。
珈琲屋は、ひとの拠り所なのだと想う。